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2024/04/24

いじわる社長~の小ネタ

三月に発売された「いじわる社長と料理人」の小ネタが完成しました。
後日談。ひたすら戸宇堂が恋にうきうきしております。
つきあったばかりの蜜月に一週間離れるのはやっぱり寂しいですね。
ですね、とかいいながら知りませんけれどもね!
べ、別に先日満員エレベーターで全員カップル、私だけ一人ものだったことに傷ついたりはしてませんよ!

ということでつづきからどうぞ~
あ!ブログなのでエロシーンはありませんが、今回キスシーンがあるのでご注意を
蜜月と地球半周

 空港の国際線にはあまり用がない。
 今まで海外旅行は未経験だというとたいてい驚かれるが、若い頃は金がなかったし、会社が軌道に乗り出した今は、時間がない。
 パスポートさえ取得したことのない戸宇堂にとって、巳口から聞かされたアメリカ行きの手続きはなにやら面倒臭そうなものだった。
 アメリカの空港を中継して余所の国にいくだけでも査証がいるというアメリカの入国審査は、一度は行ってみたいという気持ちがそがれるには十分な話だった。。
 長期滞在で、就労までしていた巳口の取得したビザはもっとややこしいらしい。ビザの種類だけでも聞いていれば頭が痛くなるし、そもそもアメリカで働くこと事態難しそうだが、そこは巳口の卒業した学校のほうで、海外修行のための相談窓口があるらしく、うまい具合に行きたい先のビザがとれるよう手配してくれるとのことだった。
 その巳口のビザがもうじき切れる。
「いつもみたいに小言の一つも言いたいところなんだが、国内旅行もあまり行ったことがないせいか、旅行前の相手に何を言えばいいのかわからんな」
 これほど大勢の人が、連日国内外へ行き来しているのかと思うと不思議な気分だが、混雑した空港のロビーの群れに紛れ込みながら、戸宇堂は巳口と向かい合っていた。
 すでにスーツケースを預け、手荷物一つを肩にかけただけの巳口は、これから近所のコンビニにでも行ってくるかのような気楽な雰囲気だ。
 ビザが切れる前に、アメリカですませておきたい用事をすませてくる。
 そう言って、巳口は一週間のアメリカ行きの予定を立てていた。
 寂しい。なんて気持ちがばれてしまうのが嫌で、出立の今日まであまり深く考えないようにしていたのだが、いざこうして巳口を見送る瞬間が来てしまうと、ともすれば永遠の別れになるような焦燥感が胸に湧いた。
「えー社長の小言なしで出発するのは、なんか物足りないなあ」
 首をかしげて不満顔を見せた巳口からは、不安や寂寥感といったものは感じ取れない。
 負けじとにやりと笑って戸宇堂は巳口を小突いた。
「しばらく会えないのに小言ばかり欲しがるなんて、ロマンの欠片もない奴だな」
「だって社長と言えば小言じゃん。あれ、いきいきしてて可愛いんだけど」
「そうか、なら無理やりにでも何か言ってやろう。向こうで粗相はするなよ。世話になった相手にはきちんと礼を言うように。あ、そうだ、土産は気にするな。昔職場で大量に空港で買ったナッツチョコをもらったが、あれは俺には拷問だ」
「らっじゃ~♪ もう英語忘れたから、世話になった相手にはサンキューサンキューくらいしか言えそうにないけど、頑張ってくるわ!」
「……お前は、人の心に不安を植え付けるのがうまいな」
 呆れた戸宇堂に背を向けると、巳口は「いってきまーす」と言って出国ゲートに足を向ける。
 その向こうがどんな様子だか戸宇堂は知らないし、飛び交う飛行機のどれに巳口が乗っているかもわからない。
 ただ確かなのは、視界に巳口がいないだけではなく、簡単に会えない場所に行ってしまうということだ。何年も過ごし、愛着があるだろう土地に……。
 いってらっしゃい。いつもの声音を装い、戸宇堂は手を振った。
 わずか一週間で帰ってくるのだ。そう自分に言い聞かせて。
 けれども、聞き分けのない心のざわめきが聞こえてしまったように、巳口が立ち止まった。
「巳口くん?」
 ゆるゆると振り返った巳口は、いつの間にか笑みを失い、何か言いたげな様子でじっとこちらを見つめてくる。
 そして、出国ゲート脇にいたスタッフに何ごとか話しかけると、再びこちらに戻ってきた。
 近くにある電光掲示板には、巳口が乗る飛行機の番号が煌々と輝いているのだが、今頃になって忘れ物だろうか。
 おい、と声をかけるのと、戸宇堂の手が巳口の大きな手に捕まれるのは同時だった。
「社長、ちょっとトイレ」
「は?」
 トイレに行くからといって、ついていかされるいわれはない。
 まさかこの期に及んで何かする気では。と、夕べさんざ抱き合った体が、巳口の体温を思いだし戸宇堂は羞恥に襲われた。
 こんな人目のある公共の場所で、当たり前のように巳口との淫らな夜を思い出すなんて、自分はいつからこんなにもふしだらな生き物になったのだろう。
 トイレには、小便器に利用者が一人。しかし、その目も気にしない勢いで、戸宇堂は巳口に個室に連れ込まれてしまった。
 おい、と小声で文句を言うも、外に聞こえるといかにも痴話げんかのようでそれ以上の言葉が続かない。
 そんな戸宇堂を、巳口は太い両腕で思いきり抱きしめてきた。
 手にしていた旅券も搭乗券も、いつのまにかリュックのポケットに突っ込まれ、その手荷物はトイレの扉のフックにかかって揺れている。
 男二人が抱き合うには個室は狭く、色気のない場所だったが、しかし、戸宇堂は抱きしめられると同時に胸いっぱいに入ってきた巳口の香りに陶然となった。
 離したくない。ずっとこうしていたい。
 たかがアメリカ行き一週間。その一週間は、今までの誰との別れよりもずっとずっと長い時間に思えるのだと、ようやく戸宇堂はそんな自分の弱音を受け入れることができた。
 たまらなくなって、逞しい巳口の背中に手を這わせながら、戸宇堂もぎゅっと愛する男を抱きしめる。
 個室の向こうで、息を潜めていた先客がそそくさと去っていく足音が聞こえる。
 続いて、また誰か入ってくる足音。
 けれども、今はそんな他人の目などどうでもよくて、戸宇堂はささやくように呟いた。
「アメリカって遠いな。地球半周だ。向こうで変な事件に巻き込まれるなよ。トラブルがあったら、すぐに帰ってこい」
 もう、気持ちを取り繕うこともしなくなった戸宇堂の声は、寂寥感にあふれていた。
 その寂しさをすくいとるように、わずかに身を離した巳口の手が、戸宇堂のおとがいに触れた。
 くい、と上向かされて間近で見つめあうと、巳口の瞳が揺れている。呑気に見えたその瞳の奥は、戸宇堂と同じように寂しそうに揺れていた。
「俺、昔は一日ありゃアメリカと日本なんてくっつくじゃん。って思ってたけど、今はほんと遠い。社長も、なんかあったらいつでも連絡くれよ。俺、飛んで帰ってくるから」
 いつもなら、つまらない冗談で突っぱねてしまうだろう巳口の言葉だったが、戸宇堂は今日だけは何も言わずに小さくうなずいた。
 わずか一週間。そして大人同士だ。
 きっとお互い何事もなく、いつも通りの日々を過ごすのだろう。
 けれども、この甘いささやきがある限り、あのまま出国ゲートで明るく別れてしまうより、ずっと優しい一週間を送ることができるような気がする。
 巳口の揺れる瞳が近づいてきた。鼻先がわずかに触れ合い、そうしてから今度は唇が触れあう。
 触れたそばから、痺れたような感触が体を走り、寂しさに揺れる心に染みわたる。
「ひ、こうきの、時間……」
 舌先で唇をつつかれ、うずいた体をなだめるように戸宇堂は言った。
 しかし、こういうときばかり準備のいい男は、こともなげに熱い吐息を漏らす。
「さっき聞いたら、今日、出国審査の窓口けっこうすいてるって。あと五分は大丈夫」
「んっ……」
 言い終えるなり、分厚い唇が戸宇堂の薄い唇を覆い尽くした。
 長い舌が戸宇堂の口腔に入ってきたかと思うと、貪るように歯列をなぞられ、舌をすすられる。
 そのつど震えてしまう腰は、巳口の腕にしっかりと抱きとめられ、戸宇堂は次第に彼に身をあずけるようにしてよりかかっていった。
 負けじと戸宇堂も巳口の口腔を荒らす。
 いつも料理の味見をしている舌を嬲り、肉を噛む頑丈な奥歯をくすぐった。唾液がからまりあい、お互いの顎を汚す。それでもとまらず、戸宇堂は巳口の背にまわしていた手を彼の後頭部へと移動させ、巳口の顔を引き寄せてやる。
 何度も鼻がこすれあい、歯がぶつかった。
 戸宇堂自身、体を個室の壁に押し付けるようにして覆いかぶさられたまま、二人のキスはいつまでも続いた。
 今のうちに、飢えを満たしておくかのように。
 角度を変えて、上あごの凹凸を犯し、舌の粘膜をすりあわせ、そうしていれば離れ離れにならなくてもすむような錯覚に陥るほど、何度も、何度も。
 痺れる唇をまた啄まれ、戸宇堂は巳口にすがりついた。
 もう、巳口の名前を呼ぶ暇さえ惜しい。
 このまま全部食べつくしてくれたらいいのに。
 飽きもせずにそんなことを考える二人の五分間は、離れがたい濃密なひとときだった。


 昼食は何にしようか。
 巳口がいないのなら、久しぶりに和食も悪くない。
 巳口が出立したあと、戸宇堂はそんなことを考えながら社に戻ったが、いつまでも唇に残る巳口の感触を忘れたくなくて、結局昼食を食べ損ねてしまった。
 夕べもさんざんキスをして、別れ際もいつまでもキスをしていた。
 もう舌が自分のものではなくなった気がするし、唇が腫れぼったいような感覚で、いつまでもじんじんと熱を孕んでいる。
 人と顔を合わせていると、キスばかりしていた唇のふしだらさがばれてしまいそうでなんとも落ち着かないが、けれども戸宇堂は、巳口が帰ってくるまでこの感触が残っていればいいのにとさえ思っていた。
 昼の仕事をこなし、会議と接待で仕方なくコーヒーをすすると、口の中からわずかに巳口の気配が消える。
 それが名残惜しくて、もう少しで夕食まで食べ損ねるところだった。
 いくらなんでも、巳口恋しさに体調を崩すわけにはいかない、と、帰り道の店でソバだけをすすると、ようやく戸宇堂の一日が終わる。
「ニューヨークまでは、十三、四時間だったか……」
 ふと、自宅のベランダから見えた、夜空を横切る飛行機に気づいて、巳口は今頃どうしているだろうかと思いをはせた。
 巳口と別れてから、もうずいぶんたっている気がするのに、逆算してみれば巳口はまだ飛行機に乗っているようだ。
 本当に、アメリカは遠い。
 ゆっくりと、戸宇堂は自分の唇を指で撫でた。
 まだ、巳口のいない生活は始まったばかりだ。今から、こんなセンチメンタルになってどうする……。
 どこか置いてけぼりにされた心地なのが恥ずかしくて、戸宇堂はその日は早々にベッドに入ってしまった。
 もちろん、布団をかぶったって暗闇に思い浮かぶのは、性懲りもなく巳口のことばかりだったが。
 現金なもので、あれほど巳口の感触の残る唇を大事にしたいと思っていたくせに、ソバ一杯しか食べなかった翌日の体は空腹に悲鳴を上げていた。
 それでも、気に入りの喫茶店や、流行チェックがてら口にする各社の春の新商品には食指が動かず、戸宇堂は出社がてらコンビニでサンドイッチだけ買って、そっけない朝食に終始した。
「奥さんに逃げられた亭主の、一日目の朝ごはんみたい」
 サンドイッチに力を入れるコンビニ各社に怒られそうな感想を漏らしながら、喜野が憐れむようにチョコレートを分けてくれたが、濃い甘味は、もはや巳口の感触の邪魔にしかならなかった。
 そうしてから数時間後。ついに、巳口と離れ離れになってから二十四時間が経過した。
 唇に彼とのキスの感触は、残っているような、いないような……。
「戸宇堂、昼飯何にする?」
 最近、研究がうまくいっていないらしい喜野は、社長室に居座る時間が長い。
 この日も、昼休憩になると同時に社長室の扉を開くと、店屋物のメニューを片手にソファーで浮かない顔をしている。
 集中はできないが、外食する気持ちの余裕もないといったところか。
「素うどん」
 相変わらず戸宇堂の食欲も減退傾向で、思いついたものをそのまま口にすると、むっつり顔をしかめて喜野が反論した。
「俺のマネするなよ」
「お前は俺以上にいい加減なんだから、出前も外食も、野菜中心に注文しろっていってるだろ。最近うどんだのチョコだのばかり食べて、そのうち倒れてもしらないぞ」
「……じゃあネギうどん」
「待て、素うどんとネギうどんあわせても、その店の出前料金に届かないんじゃないか?」
 出前注文は千円から。
 四百五十円と五百円の商品を注文しようとした社長室に、もはや昼食をとるのが面倒臭い、という空気が広がりはじめたそのときだった。
 戸宇堂の携帯電話がそっけない着信音を立てる。
 仕事の連絡かと思い手にとると、液晶画面に浮かぶメール着信の文字と、巳口の名前。
 にわかに唇の感触を思い出した戸宇堂は、はやる気持ちを抑えてメールを開封した。
 もうホテルにはついたのか。何か困っていないだろうか。まさか不審人物扱いを受けて、入国拒否されたりしてないだろうな。……それならそれで、早く帰ってこれるだろうから悪い話ではないが。
 つらつらとそんなことを考えながらメールを開くと、真っ先に目に飛び込んできたのは巳口の顔だった。
 添付写真に写る、もう懐かしい気さえする満面の笑み。
 その巳口の背後には見知らぬレストランの入り口と、異国情緒あふれる街並み。
 巳口の元勤務先だというその写真には、デコレーション機能で、まるで女子高生の写真のようにピンクの文字が躍っていた。
 ――社長との再会までカウントダウン開始! 帰国まであと6日!
 たまらず、戸宇堂の口が笑みに歪む。
 まだ出立して一日目。
 そんな風にしか思えない自分のなんとつまらないことか。
 賑やかな男にふさわしいカウントダウンは、もしかしてこれから毎日写真と共に送られてくるのだろうか。
 かつて、父である相原に、マメに写真つきメールを送っていたように。
 じんわりと熱を帯びた唇を撫でると、戸宇堂の胸は期待に高鳴りはじめた。
 こんなカウントダウンも悪くない。ただ寂しいばかりの一週間が、急に楽しいもののような気になってくる。
 気分はさながら、高級料理店の予約日を待つ客の心地だ。
 彼が帰ってきたら、真っ先にまたキスをしよう。
 一週間熟成したキスは、別れのキスと違ってきっと深い甘味があるに違いない。
「おい喜野、もういいから店屋物のメニューは忘れろ。出かけるぞ」
「嫌だ。俺は今、白衣を一秒たりとも脱ぎたくない」
「一秒くらい、一週間に比べたら短いもんだ。奢ってやるから気分転換がてらついてこい」
 立ち上がり、戸宇堂はスーツの前ボタンを閉めた。
 メールの返信はすぐには送らない。
 せっかくだから、美味しいものの写真でも添付してやろう。
 少しでも早く帰って、巳口の手料理を戸宇堂に食べさせたいと、嫉妬するくらいのものを。
「何、急にウキウキしちゃって」
 なんだかんだいって白衣を脱ぎ捨てた喜野の言葉に、戸宇堂は思わず吹きだした。
 巳口のメール一つに、人から見てもウキウキしているなんて色ボケもいいところだ。
 けれども遠い場所にいる巳口の気持ちが、今すぐそばにいるようで、浮かれ切った自分も、悪くはなかった。

 一週間後。
 帰ってきた巳口は、十時間以上にフライトで疲れているだろうに、意地を張るように戸宇堂をコーラルに誘い厨房に立ったことはいうまでもない。


終わり

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2014/05/01 小ネタ

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